2008年12月18日木曜日

牛の拓いた牧場、山の急斜面が緑の牧場になった(斎藤晶さんの牧場)

今日の日経夕刊で目に止まった記事。農業関係で久々ぶりに心温まる話題だ。満州から引き上げてきた斎藤晶さんは、北海道の急斜面の山地に牛を放牧することで、山地を美しい緑の牧場に変化させた。

抜粋:

  1. 満州から帰ってきた斎藤さんに割り当てられたのは北海道旭川の傾斜地の石の山。ササだらけのひどい荒れ地。働けど働けど、ウサギとネズミの集中攻撃でどうしようもなく開拓農業に行き詰まる。みなと同じことをしていてはダメなんだと、山の自然をそのまま生かす形で牛を飼うことを思いついた。

  2. 斎藤さんは草も取らず牛を放して草を食わせた。牧草の種をまくだけ。牛はササや雑草を食べ、蹄で種を地面を踏み込む。やがて雑草は退化し牧草だけが残る。

  3. 急斜面で菜食するため足腰の強い牛に育つ。牛は舐めるように草を食べるのでビロードのような放牧地となる。すべて牛にまかせて放っておく。

  4. 北海道庁は斎藤のやり方を真似をしてはダメとの通達を出す(手間暇を掛けないと開墾とはならないと言って)。ところが酪農指導のために来日したニュージーランドの農業博士は「北海道庁は口を出すな、斎藤さんのやり方がいい」と絶賛。

  5. 日本の国土の70%は山。草食動物の餌は国内にある。どうして気がつかないのか、と斎藤さんは語る。

  6. 斎藤さんは自分の土地をみんなに開放している。教会や山小屋や幼稚園がある。「土地はあくまでも公共的なもの、みんなのもの」と斎藤さんは言う。

  7. 30年前から山には養蜂家が入っている。「乳と蜜は山から流れてくる。聖書にあるように乳と蜜の流れる里は理想郷。その理想郷がどうして日本国中の山地に広まらないのか」と斎藤さんは心から憂えている。


牛はカモシカと同じで急斜面でも生活できる。ベネズエラ山中のスイス人入植地を見たことがあるが45°程度の絶壁急斜面でも牛は平気で生活している。確か斎藤さんのこの放牧方法は30年ほど前に文藝春秋でも採り上げられたと思う。ところが日本では一向に広まっていない。なぜか。

人口的な飼育環境で、フォアグラみたいに強制的に餌を食わせ異常に不健康な肥満牛を育てた方が、霜降り肉だとか言ってよほど儲かるからだ。また日本の山林所有者が牧場として山林を使うことを許さないと言うこともある。

日本の狭い国土も、工夫次第でいくらでも手間を掛けないで活用する方法があるのだ。それを阻むものが農村儲け主義と土地利権と「手間暇を掛けてのこだわり生産こそ高く売れるので高付加価値を生む」とNHKが宣伝する神話的価値観。これが生産性の高い新しい工夫を阻んでいるのだ。

かくしてニッポンの牛肉価格は天文学的に高くなり、肉は贅沢品と化し、日本国民の一人あたり食肉摂取量は中国に遙かに負けてしまうことになった。オリンピックで負けるのも、むべなるかななのである。

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